止まらない感染拡大“最新の治療法”臨床医に聞く

止まらない感染拡大“最新の治療法”臨床医に聞く

新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、完璧な治療法はまだ確立していません。未知なるウイルスに対し、最前線の病院ではどのような薬を使って治療しているのでしょうか。呼吸器内科部長として約100人の新型コロナ患者を治療してきた、日本赤十字社医療センター・出雲雄大医師に聞きました。

◇軽症の段階で、有効な治療薬はありますか?
現在、軽症の方に投与するのは、咳止めや解熱剤です。確立した治療薬はなく、対症療法のみというのが現実です。

◇新型コロナウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬として期待される『ファビピラビル(アビガン)』の効果について、臨床研究を進めている藤田医科大学は「明確な有効性は確認できない」と発表しました。実際、現場で使って、効き目はどう感じていますか?
藤田医科大学の研究では、正確にはアビガンが有効か無効かの判断は難しいということです。医学の世界では統計学的な解釈ということをするわけですが、そこが詰められていないということが一つです。現在、企業が行っている治験や海外での臨床試験の結果を待つ必要があります。当院では、肺の両側に炎症がある中等症以上の患者40名ほどにアビガンを投与してきました。アビガンを投与していても、約半数の方は重症や重篤とステージが進んでしまいました。また、軽症の患者20人のうち、17人はアビガン等も使用せずに軽症のまま改善しました。つまり、効果は明確ではありません。ただ、個々の患者さんで見ると、アビガンが効いていると思える患者もいます。発症の極早期に投与すると意味がある、という意見もありますので、今後詰めていかなくてはなりません。

◇5月に特例承認された抗ウイルス薬『レムデシビル(ベクルリー)』に関してはどうでしょうか?
レムデシビルは、当院では現在、酸素投与が必要な重症以上の患者に、免疫の薬と併用して使っています。人工呼吸器を使用している患者では効果があり、人工呼吸器を外すことができています。レムデシビルと免疫の薬を併用した臨床試験は、世界中で多数行われています。

◇重症化する原因として挙げられている『サイトカインストーム』は、免疫の暴走で健全な細胞まで傷つけてしまうことがあるということですが、この場合、どういった治療薬が効果的なのでしょうか?
免疫を抑制する薬が必要になると考えていて、私たちは免疫抑制薬『トシリズマブ(アクテムラ)』を使っています。これまでアクテムラを投与した16例では、約90%の方がサイトカインストームを乗り切ることができました。ただし、アクテムラは、新型コロナウイルス感染症において、日本ではまだ保険承認されていません。そこで、当院では倫理委員会や患者さんの同意を頂いて治療を行っています。現在、日本を含む世界各国で臨床試験が行われていて、先月29日に発表された欧米でのCOVACTA試験では、有用性が示せませんでした。しかし、まだ複数の臨床試験が行われており、その結果が待っているところです。

◇免疫抑制薬では『デキサメタゾン(デカドロン)』が先月、新型コロナの治療薬として承認されましたが、この薬は、どのように使っているのでしょうか?
デキサメタゾンは現在、カクテル治療法といって、レムデシビル・トシリズマブと同時に投与しています。併用して使っています。この3剤を同時に使用することで効果があるように感じています。

◇3つの薬を併用すると効果があるということですが、どのタイミングで投与すればいいのか?
免疫を抑える薬はタイミングが難しいです。現在、酸素投与が必要となるような重症以上のの患者においては、私たちのデータと経験からは、この3薬をなるべく早く投与するようにしています。ただ、ウイルス性肺炎だけを起こしているような患者に関しては、免疫抑制薬を使うと、有効な免疫細胞が減ってしまうのではないかという意見もあります。ですので、軽症や中等症の患者に使うのではなく、重症化の見極めが大事だとおもっています。

◇重症化のタイミングはどう見分けているのでしょうか?
まず、酸素の投与が必要になってきているのかどうかを示す酸素の飽和度、胸のレントゲン写真や、血液検査の炎症が高くなっていないかなど、どれか一つだけを見るのではなく、複合的に見ていく必要があります。

◇今後、さらに治療法を確立していくための課題はありますか?
残念ながら、これだけで新型コロナウイルスが抑えられるという薬はまだありません。現在、重症例以上に対する、レムデシビル、デキサメタゾン、アクテムラの組み合わせの投与は有効と思っています。しかし、仮に新型コロナウイルスにかかった場合、重症・重篤になりたいという人はいないと思います。ですので、軽症や中等症での改善や、他の人に感染する力をなくすような治療法が望まれていますが、まだありません。今後、世界の医療機関と協力したり、国などが音頭を取って大規模な臨床試験などを行っていって、治療法を確立していくということが重要だと思っています。